TOPみんなでつくるリネアストリアウィッグは、わたしと咲く。土屋光子「本音の在りかを自分で探す」

Instagram:mitsukoaspj

着用ウィッグ:インナーカラーウェイブミディ

抜毛症を公表し活動。様々な理由により髪に症状をもつ女性や子供達のコミュニティASPJを運営。その活動は「ザ!世界仰天ニュース(日本テレビ)」や「ビビット(TBSテレビ)」などでも特集された。

自分の髪を抜くということ

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髪の毛を抜き始めたのは小学1年生の時。枝毛を抜く姉の真似をした事がきっかけです。痛いけど気持ちいいなという感覚で、次第にぼうっとしている時間に抜いてしまうことが多くなっていきました。ひとりの時にテレビを見ながら、夜寝つく前などに、ペン回しのような感じで無意識に抜くことが癖になっていきました。私は自分で抜いてしまう心の葛藤を説明する時に、「ニキビを潰しちゃう気持ちと似ている」とお話ししています。なんだか気になってしまい、ダメだと分かっているのについ触ってしまう、潰したくなる。つまんでピュっと出るとその瞬間はスキッとするけれど、その後に後悔する。あの感覚にすごく似ていて。やっちゃいけないと頭ではわかっているのに手が動いてしまう、やめなきゃと思えば思うほどやめられない。そんな状態なのです。

発症の原因について、当事者の方にヒアリングしていると、人間関係に問題を抱えていない方もいらっしゃいます。「主に思春期に家庭環境とかストレスが原因」と表現されることが多くありますが、物事のきっかけは一つとは限らないと私は思います。

ASPJは、
泣いていっぱい笑う場所

土屋光子様の写真
土屋光子様の写真

Alopecia style project Japan(アロペシアスタイルプロジェクトジャパン、通称:ASPJ)という団体は、当事者が集まり2017年に立ち上げました。毎月の当事者の交流会では脱毛症、乏毛症、抜毛症、治療の副作用など様々な理由で髪に症状を持つ方々が集まっています。集まってみるとちょっと面白いことが起きるんですよ。かたや抜く毛がない人、かたや毛はあるのにわざわざ抜いてしまう人、初めはお互いの気持ちが分からないし戸惑う事もあります。「髪の毛あるのになんで抜いちゃうの?不思議!」みたいな(笑)。抜いちゃう子は抜いちゃう子で「自分でもわからないのだけど、抜いた毛の毛根鞘(もうこんしょう)がね…」とか。そうすると髪の毛がない子は「え、毛根鞘ってなに?!」というように不思議な会話が生まれていき、いつの間にか、なんだかお互い笑っちゃう、そんな優しい時間を過ごせる交流会です。

ご参加いただいているのは高校生から60代までと幅広い女子会です(笑)。年代によって悩みは違いますが、就職、結婚や出産など少し先を行く人生の先輩にお話を聞ける学生さん、子供と同じ年代の子達の気持ちを聞ける経験豊富な先輩方、というふうにお互いに症状を越えた学びがあると感じます。

痛みを共感し合うだけではなく、自分とは違うことで悩んでいる人の話を聞くという体験は、一時的にでも物事を俯瞰(ふかん)的に見ることに繋がるので、とても大切な事だと思っています。髪の毛やウィッグのこと、メイクやおしゃれの事、家族や恋人でも共感できない部分についての「あるあるトーク」がすごく楽しい。「こんなこと初めて人と話せた」「私は本当にひとりじゃなかったと思えました」と毎回嬉しい感想をいただいています。

検索で見つけて欲しいので症状名のハッシュタグはつけていますが、症状名にはフォーカスしていません。一人一人歩んできた経験や想いや悩みも違うし、発症時期、向き合い方も違います。だからこそ、その人自身の本質に出逢いたい、輝きを知りたいと、いつも思っています。一人一人のスタイルを見つけていけるようなお手伝いを提案していきたいと考えています。悩むことは悪いことではないけれど、ひとりで抱えずにいてほしい。ありのままを受け入れ合える仲間がいると知ってほしい。肩の力を抜いて安心してほしい。泣いていいし、怒っていい、我慢しなくていい、悔しかったって言っていい。そんなASPJの交流会は泣いていっぱい笑う。私にとっても大切な場所です。

好きな事にフォーカスする

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今でこそこんな私ですが、以前は世の中全体を斜(はす)に構えているようなタイプでした(笑)抜毛症、ウィッグのこと、全部ひとりで抱え込んでいました。今までお付き合いしてきた方にも主人にもウィッグのことを言いませんでしたし出産の時もウィッグでした(笑)

隠し事があるというのは、「どうせ誰も私のことは理解してもらえない」という心の壁にもなり、「自分の存在は美しくないもの、隠さなければいけないもの」だという意識が強かった。そしてさらに、結婚したら妻はこうあるべき、母親はこうあるべきという、「~べき」という鎧をつけて生きていました。

それがピークだったのは出産後。子供に変なもの食べさせちゃいけない、病気にさせちゃいけない、いい母親にならなければいけない。外食はダメ。お味噌汁も出汁からとらなきゃいけない、家もピカピカじゃなきゃいけない、人に預けてはダメ、自分で全部やらなきゃいけない。できない事があると、罪悪感を感じて泣く。体も心もボロボロ、睡眠時間は短い、しんどいのに頑張る。誰に頼まれたわけでもないのに「我」を張り続けた負のループでした。自分ではない「誰か」や「世間の物差し」中心で生きていることに気が付けず、とても苦しい時期でした。自信がない、出来ない事が劣等感につながり、存在を否定し、ついには自分を責めるコップがいっぱいになり、溢れてしまいました。

そして、引き籠りひたすら自分と向き合う時間を作りました。「どう生きたいのか」「~べき」の世界でずっと生きていくのかと問い続け、好きな事、嫌いな事、悲しかった事、悔しかった事、怒っている事、心の深い本音をノートに書いていきました。毒吐きノートもあるし、夢ノートもありました。全てを吐き出して改めて読み返すと、この怒りや悲しみのエネルギーとは悪いという面だけではなく、これがあるからこそ、良い事も起きるのだと感じられるようになりました。

子供の頃は感情をすぐに表に出せますが、大人になるにつれて、ぐっと飲みこむような場面が多くなっていく。我慢して出せなかったものが溜まっていきますよね。それはいつしか頑固な心の便秘になっていってしまう。私はそれを「書く」ことで心のデトックスをして、やっと楽になれたのです。

実生活でも少しずつ試して行きました。子供に対してもお母さんを頑張らないようになりました(笑)。カップラーメンにしたり、シッターさんなどを利用したり、ひとつひとつ、今までの自分の「〜すべき」という固定概念を壊し、「大丈夫かな」とひとつひとつ確認をしていきました。お風呂屋さんにウィッグをつけないで行ってみたり、保育園にいつもと違うウィッグを付けて行ってみたり。初めはどんな風に思われるかと怖かったのですが、人って、そんなに他人をじっくり見ているわけではないのだと思いました。(笑)

勇気を出してブログに今まで諦めていた事や、やってみたかった事を書いてみたら、実際にモデルをしませんかと連絡をいただき、いつしか人前に出るようになっていきました。

ASPJの未来

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立ち上げ当初から目指しているのは、私達のような団体がなくなることです。必要とされない世の中になる=ひとりひとり違う事が本当の意味で、当たり前とされる成熟した社会だと思うからです。そのような社会に自分たちができることをチャレンジしていき、継続した活動ができるように場所とシステムを作っていきたいと思います。

その人の痛みが、次の人に繋がっていき、みんなが情報をシェアしていくことが、やさしい未来をつくると信じています。ひとりで悩みを抱えるのではなく、安心して過ごせる場所。ほっとできる場所であり、自分の本音を見せられる場所。「本当の自分はどうしたい?」と自分の情熱や可能性を感じられる場所。ASPJがみなさんにとって、そのような場所のひとつになれたらと思います。

writer:Murase Jumpei

メッセージ

私たちは皆ひとりひとりがプリンセス。自分の人生をHappyに生きていくことが皆のHappyにつながっていきます。ひとりじゃないよ