抗がん剤治療中の方へ抗がん剤治療ご経験者様エピソードDokoさま

抗がん剤治療
ご経験者様エピソード Dokoさま

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Doko

2018年11月に卵巣癌&子宮体癌が発覚。翌月よりTC療法+アバスチンにて化学療法をスタート。
2019年4月に寛解。現在は、再発防止のためのアバスチン単剤での維持療法中。

目次

Episode3

とうとう緊急入院

深夜の腹水濾過濃縮再静注療法(CART)

入院病棟に移ったのは18時前だったと思います。車椅子からベッドへ移り、程なくして先生がやってきて 「これから腹水を抜きます」と言われました。

腹水濾過濃縮再静注療法(CART)という、お腹に針を刺して、溜まった腹水をゆっくりと抜いていく処置。CARTは抜いた腹水は濾過器で細菌やがん細胞などを除去し、さらに濃縮器で除水を行い、腹水に含まれているアルブミン等の栄養分のみを点滴で再び体内にもどすという治療法。

左のお腹に針を刺し、腹水を抜いていく。5リットルの袋がパンパンになった時、時刻は深夜の1時30分。腹水が抜けていくと同時に、卵巣にできている腫瘍の形が手で確認できました。右下腹部にぽっこりと固いしこりのような塊。5リットルを抜き終わっても、まだお腹の膨らみは残っていました。

先生が来て「時間が時間なのでこれで終わりにしましょう」と、まだお腹の中の腹水は全部抜けきれてないまま終了に。

この日、合計で約6.5リットルの腹水を抜きました。CARTが終わるとお腹が軽くなって呼吸が楽になりました。

「今日は久しぶりに熟睡できるかもしれない」と思い、病室へ戻ったのは午前3時過ぎ。平成最後のハロウィンは、私にとって忘れられない日になりました。

告知〜悪性腫瘍とがん〜

CART治療中に入院前に受けたPET検査の結果が知らされました。

PET検査とは、がん細胞が正常細胞に比べて3~8倍のブドウ糖を取り込む、という性質を利用し、ブドウ糖に近い成分(FDG)を体内に注射し、ブドウ糖(FDG)が多く集まるところを見つけてがんを発見する検査です。

「悪性腫瘍に集まる性質のFDGの集塵が右の卵巣に見られたため、今回は悪性である可能性が高い」と告げられました。PET検査の結果が悪性腫瘍を疑うということは、ほぼがん確定なんだろうと思いました。ただ、その後に「幸いにもリンパや子宮への転移は見られませんでした」という言葉を聞き、がんへの恐怖心や絶望のようなものよりも、「転移がなくて良かった」という安堵の気持ちを強く抱きました。だからなのか、涙を流したり取り乱したりなどはせず、淡々と2度目のがん宣告を受け入れました。

翌日、改めて主治医から家族と共に現在の病状の説明と今後の治療方針についての説明を受けました。主治医からは「手術をしなければ確定ではないけれど現状では卵巣がんを疑っています」と言われました。

この時、「卵巣がん」という言葉を聞いて、多少動揺したことを覚えています。初めて自分に向けられた「がん」という言葉。今までは、「悪いもの」だったり「悪性腫瘍」という言い回しだったのが、はっきり「卵巣がん」と言われたことが一番ショックでした。

でもやっぱりこの時も泣いたりはしませんでした。泣かないように我慢していたわけではありません。涙が出るとか泣き崩れるとかそんな心境ではなかったんです。やっと入院できて、手術の日程が決まって、これまでの苦しみの原因が特定できて、これでやっと治療が受けられるという安堵の方が、3度のがん宣告よりもはるかに優っていたのです。

恐怖の胸腔ドレナージ

入院してからは、鼻に酸素吸入のためのカニューレ、点滴、尿道カテーテルの3つの管に繋がれて、自力歩行ができる状態ではなかったために、移動には車椅子を利用していました。そして4つ目の管が、胸水を抜くための胸腔ドレーンです。

右の肺は水で潰れてしまっていて機能しておらず、常に体内の酸素濃度が低く、これが苦しかった原因でした。まずは肺に溜まった水を抜いて呼吸を安定させないことには手術もできないと、肺に針を刺して胸水を抜くという施術をすることになりました。

胸水は腹水のように数時間で抜いてしまうわけではなく、午前中に500ml、午後に500mlを限度とし、1日で排出量が100ml以下にならないとドレーンを抜去できず、何日もかけて胸水が出なくなるまで抜き続けます。

私の場合、 最終的にドレーンの抜去ができたのは手術から5日後のことでした。このドレーンが重くて、針の挿入部も痛くて、ドレーンを挿入してから3日間くらいは痛くて眠れませんでした。

そんな胸腔ドレナージの唯一の楽しみといえば、ドレナージを担当してくれた呼吸器科のドクターがイケメンだったことぐらいでしょうか。毎日15時ごろ回診に来てくれるのですが、病棟のナースさん達もソワソワしていたのを記憶しています。

手術当日、まさかの手術延期!?

入院6日目。待ちに待った手術当日の朝。入院初日に腹水を抜いたけど、再び腹水が溜まり始めて相変わらずお腹は痛くて苦しくて。とにかく早く手術をして悪いものを体内から全部取り出して欲しいと思っていました。

午後からの手術でも当日は絶食、飲み物も朝7時以降はNGのため、いつもより早起きして6時55分ギリギリでカルピスとスポーツドリンクを飲みました。

午前8時、浣腸の時間です。別室に移動し、看護師さんに左を下にして横向きになるように言われました。右の肺に水が溜まっていたため、左向きで寝ると、正常に機能している左肺が右胸水に圧迫されて呼吸が苦しくなるので、もうずっと左向きで寝ていませんでした。

胸水はまだ完全に抜けたわけではなかったので左を向くのはちょっと怖くて、「咳が出るかもしれない」そう思いながらも言われた通りに左向きに横になると、「ズッキーン」とみぞおち付近に刺すような痛みがありました。痛みに耐えながら排便を済ませたけれど、呼吸で横隔膜が動くたびに「ズキーンズキーン」と痛みました。

「どうしよう、今日手術なのに」自室に戻り、ベッドでしばらく横になって休んでみることにしたけど、痛みは収まりませんでした。呼吸をするたびに肺が痛い。今まで呼吸が苦しいとか咳がでることはあったけど、肺自体にこんな痛みを感じることはありませんでした。

「この痛みのせいで、今日の手術ができなくなったら困る」「1ヶ月もの間辛い思いをして待ちに待った手術の日なのに、なんとしても今日手術してもらいたい」と思いました。でも、「この肺の痛みを隠し通し、我慢して平静を装って手術をしたとして、全身麻酔時に何か異変が起きたりしたら本末転倒ではないか」そう思い直し、看護師さんに浣腸の際に左向きになった時から肺に刺すような痛みが走り、それ以降、呼吸をするたびに痛むことを伝えました。

実は後から知ったことですが、浣腸の際に左向きになることには意味があるそうです。腸の走行の関係でしっかり全体に浣腸の液が到達するようにするために浣腸は基本的に全員左側を下にして行うのだそうです。

その後、主治医が様子を見にきた時には最初の「ズッキーン」という痛みは少し治まりつつありましたが、横隔膜が動くたびに肺が痛むのは続いていました。でも「今日は手術をするのは止めましょう」と言われるのが怖かったのと「手術は午後だし、それまでには治るだろう」と思い、主治医に「痛みは治まった」と伝えてしまいました。

午前9時、朝のバイタルチェックの時間。いつものように体温•血圧•酸素濃度の測定を行います。
渡された体温計を脇に挟み、ピピッと鳴ったので取り出すと、そこには「38.5」という数字がありました。それを見た看護師さんが慌てだしたのです。

「大変!先生に言わなきゃ!」 と、主治医に連絡しに行ってしまいました。体温計では熱が出てることになっているけど、体調はいつもと変わりない。むしろ問題は肺の痛みのほうなのに。

その後、ほどなくして戻ってきた看護師さんからは「今日多分手術できないと思います。38度を超える熱があると麻酔ができないので」と伝えらました。

「今日手術できないですって!?」

「そんなの嫌だ。今日手術しないなんて」

すると、ガヤガヤと外が騒がしくなりました。まるで部長回診時のような多数のドクター達が病室に入ってきて、ベッドを取り囲まれて、おでこを触られたり、「足痛い?」と聞かれたり。体調は特に変わりがない様子を見て「とりあえず、もう一度体温測ってみて、ちょっと様子を見ましょう」と。

そして、看護師さんが最初のとは違う、別の体温計を持ってきたので再び検温すると、今度は「37.8」と表示されました。これで予定通り手術ができるとほっとしました。この発熱騒動のおかげか、気がついたら肺の痛みはほとんど気にならなくなっていました。

手術当日 午後1時。熱も下がったし着々と手術の準備を整えていきました。主治医が午前中の1件目のオペから戻り、様子を見にきて本日のオペは予定通り行うことになったけど、「術後は念のために集中治療室に入ってもらいます」と告げられました。

術前説明時にも術後に胸水憎悪が見られた場合は集中治療室に入ってもらう可能性があると伝えられていましたが、肺の痛みと発熱騒動のせいで集中治療室行きが事前に決まってしまいました。それでも「予定通り手術ができるなら集中治療室ぐらい喜んで入ります」という心境でした。

手術前にもう一度熱を測るように言われたので再び熱を測ると、まさかの「38度2分」でした。「まさか!38度超えたらオペできない!」慌てて別の体温計で再計測し「37度7分」でこの日は決着。胸を撫で下ろしました。そして、主治医からのコールでオペ室へと向かったのです。

執刀医は誰?手術は無事終了

手術室に到着すると入口にオペ室の看護師さんがいて、ファイルを見ながら名前、生年月日、血液型、手術部位はどこかを聞かれました。

履物をオペ室専用のスリッパに履き替え、病棟の看護師さんと別れます。オペ室の看護師さんに車椅子を押してもらい、ずらっと並んでいるオペ室のうちの1室に入りました。テレビで見るようなオペ室とは違って、割とこじんまりとした小さい部屋でした。

手術室では麻酔科医が既に準備していました。本来なら全身麻酔前に「硬膜外麻酔」という、術後の痛み緩和のための麻酔の針を留置するために、エビのように背中を丸めなければならないのですが、私の場合はお腹が大きくて背中を丸めることができないため、全身麻酔後の対応になりました。おかげで事前にネットで調べて恐れていた、硬膜外麻酔の針を入れる時が痛かったという思いをすることもなく、あっさりと全身麻酔にかかりました。

「手術終わりましたよー」と言う呼びかけで目が覚めると、視線の先には見慣れた婦人科の看護師さんが二人立っていました。

「あれ?術後は集中治療室入るんじゃなかったっけ?これから集中治療室行くんですか?」 と聞くと「集中治療室には入らなくて大丈夫ですよ。これから病室戻りますからね」と伝えられました。時刻は午後7時30分頃でした。手術室では、意識があるうちに主治医をはじめとした婦人科のドクターは現れず、一体誰が手術したのか、何人くらいいたのか、今でも謎です。

手術時間は約5時間。長いのか短いのか分かりませんが、午前11時から病院に来ていた家族はさぞ疲れただろうと思います。オペ後、私が病室に戻る前に、主治医から家族に状況の説明があったとのことです。内容を一通り聞くと「もう平気だからと、後はどうせ寝てるだけだから」と家族には帰宅してもらいました。

毎日見舞いに来ていたし、両親は高齢です。相当疲れているはず。病気になると家族の生活も変わってしまうし、迷惑をかけてしまう事を痛感しました。

病室に戻ると、電気毛布(手術室は寒いしほぼ全裸なので体が冷え切っている)や血栓予防のフットポンプが足に装備されます。気がつくと、背中に硬膜外麻酔の管(鎮痛剤)、点滴、酸素マスク、尿管、胸腔ドレーン、腹部のドレーンと体に繋がれている管が増えていました。

主治医がやってきて、手術は無事に終わり、お腹の中の悪いものは全部取り出したこと、明日はできるだけ動くようにと告げらました。動くことで術後の回復の速さが違うのだそうです。「明日は頑張って動くぞ」そう思いました。

入院中はベッドから車椅子への移動のために立ち上がるのもやっとだったのに、手術の翌日から動き回ることができるとは現状では到底思えなかったのですが、予定通り手術が終わったことで、すでに頭の中は退院のことで一杯になっていました。「1日でも早く回復して退院するために、動かなきゃ」術後、すぐにそんなこと考え始めました。

決め手がないため退院へ

手術の翌朝は最高血圧が60しかなく、急遽輸血をすることになりました。1日でも早く動かないと術後の回復が遅くなり、退院も伸びてしまうと気持ちが焦りました。ところが、看護師さんから低血圧による輸血は術後あるあるだと聞かされました。そして、その方が後々の回復が早くなるとも教えて貰って一安心したのも束の間、今度は硬膜外麻酔の影響によって右足が麻痺して動かなくなりました。

「右足だけ全く感覚がない」、「明日までに治らないとまた歩けない」、「回復が遅くなれば退院が遅れる」とにかく、早く退院したくて、気持ちばかりが焦りました。でも、これもまた術後あるあるとのことでした。

術後2日目には右足の感覚は戻り動かせるようになり、血圧も輸血のおかげで正常範囲に戻りました。「やっと自分の足で歩ける日が来た!」ベッドからトイレまでのほんの3メートルほどを看護師さんに支えられながら歩きました。ほんの数メートルでも自分の足で歩くことができたので尿管が外れ、そしてなんと午後にはシャワーを浴びて良いと言われました。まだお腹と胸にドレーンが刺さった状態で、お腹の傷跡も見るのが怖かったのですが、なんとか看護師さんに助けてもらいながらシャワーを浴びて髪も洗うことができました。

2日目以降はどんどんと自分でできることが増え、回復に向かっているのが自分でもわかりました。術後3日目には腹部のドレーンが外れ、酸素吸入のための鼻カニューレも取り外されて、体から管が1本、また1本と減っていきました。

それに伴い身動きが取れやすくなり、ますます自力での歩行範囲が広がって、5日目には胸水貯留が見られなくなり、ついに胸腔ドレーンが抜去されました。そして6日目にはとうとう退院の許可が出たのです。

卵巣がんは臓器摘出後の病理検査によって初めて確定診断されるのですが、手術中に迅速病理検査を行うことによって悪性か良性かを見極めて術後すぐに化学療法を行うこともあるそうです。

私の場合は、大量の胸水と腹水が溜まったことで肺への遠隔転移が疑われており、病理検査を待たずして入院を延長し、このまま化学療法を行ったほうがいいのではというのが当初の主治医の見解でした。ただ、手術時の医師による目視、術中迅速病理検査の双方でも悪性か良性かは区別がつかなかったそうです。

術後には胸水と腹水は改善され、腹水からも胸水からもがん細胞が検出できなかったこともあり、今の段階では化学療法に踏みきるだけの決め手がないとのことで、病理検査の結果が出るまでは一旦退院して様子を見ることになりました。

そして手術から7日目。ついに退院です。緊急入院してから3週間後のことでした。

Episode4 抗がん剤治療と脱毛