抗がん剤治療中の方へ抗がん剤治療ご経験者様エピソードDokoさま

抗がん剤治療
ご経験者様エピソード Dokoさま

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Doko

2018年11月に卵巣癌&子宮体癌が発覚。翌月よりTC療法+アバスチンにて化学療法をスタート。
2019年4月に寛解。現在は、再発防止のためのアバスチン単剤での維持療法中。

目次

Episode2

受診~入院

2018年10月1日 初めての婦人科受診

謎の腹痛と下腹部膨張に悩まされ始めてから1ヶ月後の2018年10月1日、婦人科クリニックを受診しました。診察時には、1ヶ月間毎日37度5分程度の発熱があることや頭痛、腹痛、腰も痛いなど、とにかく体調が悪いことを訴える予定だったのですが、医師からの質問は「いつ頃から痛んでいますか?」だけでした。最初に違和感を感じたのは1ヶ月前の8月末だったことを伝えると「では内診とエコーで見てみましょう」と。

お腹のエコー写真を見ながら、先生は、「卵巣が腫れてるね」とおっしゃいました。「やっぱりそうか」と私は卵巣が炎症を起こして腫れているのだと思ったのです。続けて先生は「これはクリニックレベルで診れる症状ではない。紹介状を書くから自宅の近くに大学病院などの大きな病院はありませんか?」と。

「大学病院」という想定外の言葉で混乱しました。そして、「明日の朝1番に電話してこの紹介状を持って大学病院を受診してください。仕事が休めないとか言っている場合ではないですよ。必ず明日朝一番で受診してください」とも伝えられました。この日、この婦人科クリニックを受診すれば原因が明らかになり、1ヶ月間の不調から解放されると思っていた私は、ほんの5分ほどでの診察で大学病院への紹介状を渡されるだけになり、どんな病気なのかもよくわからず、頭が真っ白になりました。

先生に「そんなに悪いんですか?」と聞くと「話を聞いた限りでは最初にお腹が大きくなり始めてからまだ日数があまり経っていないのに、これほど大きくなっているわけだから、決して良いとは言えないね」と。その時、カルテに先生が「卵巣腫瘍」と入力しているのが見えました。

「腫瘍って……」

その日、紹介状を手にし、帰宅途中の電車の中で卵巣腫瘍についてスマホで検索しました。だんだん気分が悪くなり、目の前が真っ暗になったと思ったら、立っていたはずなのに何故か座席に座っていました。親切な方が、意識が無くなりそうな私に席を譲って座らせてくれたような気がするけどその時の記憶はほとんどありませんでした。

翌朝、言われた通り朝一番に大学病院の婦人科へ電話をかけましたが繋がりませんでした。何度かけても「ただ今担当が他の電話に出ておりますので改めてお掛け直しください」と言われるばかりで、「大学病院なのに、チケットぴあかよって」。

朝一番に予約して受診するように言われていたのに、電話が繋がらないことで自分の中での緊張感がだんだん薄れていきました。夕方になってやっと婦人科の看護師さんに繋がり、結局予約が取れたのはその日から3日後の10月5日でした。

大学病院受診までの3日間は「卵巣腫瘍」で検索しまくりました。すると「卵巣腫瘍の約90%は良性で、約10%が悪性とされています」と 公益社団法人 日本婦人科腫瘍学会のH Pに書いてあるではないですか。90%が良性ならば私も良性に違いない。仕事関連では「卵巣に腫瘍ができておそらく手術をすることになると思うが腹腔鏡手術だろうし2週間後には復帰できるだろう」と報告しました。卵巣腫瘍は90%が良性だから私は大丈夫と信じて疑いませんでした。

腹腔鏡手術なら入院予定は3泊4日、術後の回復も早いということをネットで調べて知りました。金曜日に大学病院を受診して、翌週に手術して、その翌週には復帰できる。心配してくれていた周囲の人達にも「卵巣腫瘍は90%が良性だから大丈夫」を連呼していました。自分に、きっと大丈夫って言い聞かせていたのではなく、本気でそう思っていたんです。「腫瘍が短期間で急に大きくなっているのだから良いものではない」と数日前に言われたことはすっかり忘れ、「卵巣腫瘍の90%は良性」が自分も当てはまっていると信じ込んでいました。

2018年10月5日 大学病院初診

大学病院初診にて入院から手術、その間に受けるべき検査の全日程が決まりました。

初めての大学病院では広いロビーとたくさんの人がいることに驚きました。こんなに大学病院に来る人がいるのかと。3時間ほど待たされ、名前が呼ばれ診察室に入ると、まずは内診と触診、腹部超音波。そして、以下の内容を医師から告げられました。

  • ・紹介状に書いてある通り、卵巣に腫瘍ができていること
  • ・大きさは新生児の頭くらい
  • ・大きくなりすぎていて、今の段階では右か左のどちらの卵巣が腫れているのも分からないこと
  • ・大きさから腹腔鏡ではなく開腹手術一択であること
  • ・腫瘍ができている卵巣は摘出することになること
  • ・もし悪いものだった場合、両卵巣と子宮も摘出を行う可能性があり、そうなったら妊娠は望めないこと

何よりもまずは手術の日程を決めることになったのですが、手術の予約は既に一杯で、最短でも約1ヶ月後の11月9日とのことでした。2日前の11月7日に入院し、順調に回復すれば11月15日に退院できるので、それを目指すことになりました。

また、手術を待つ間の1ヶ月間、以下のような検査を受けてほしいとも伝えられました。

  • ・MRI
  • ・PETーCT検査
  • ・胃カメラ
  • ・大腸カメラ(※卵巣にできる腫瘍は胃や腸から悪いものが飛んできて出来ることもあるため)

複数の検査は、万が一悪性であった場合を想定して念のため検査をする。卵巣はお腹の中で風船のように浮いている臓器のため、胃や大腸のように細胞診を取って検査することができず、手術前に様々な画像検査や腫瘍マーカーなどで傍証を集めてから手術を行い、最終的には病理検査によって確定診断をする。だから「これらの検査は手術をする人には必須なんだ」と思い、この時もまさか自分が10%の悪性の方に入っているなんて夢にも思っていませんでした。

大学病院受診後は即入院になるとばかり思っていたので、手術までの約1ヶ月間も今の状態を放置することが不安になり、その間に腫瘍が大きくなったり悪化したりしないか尋ねると「1ヶ月くらいでは病状は変わらないので大丈夫」と聞かされました。

すぐには対処してもらえず、後1ヶ月もこのお腹のままでいなければならないことに落胆と不安を覚えましたが、どこの大学病院も手術までの待ち時間は3週間程度が一般的なのだからしょうがないと諦めました。結局、午前10時の診察予約だったのに、初診で入院から手術、それまでに受けなければならない検査の全ての予約を入れ、お会計まで全て終わったのは夕方でした。

入院日までに悪化していく体調

入院までの1ヶ月間、日増しに体調は悪化しました。何度も検査のために病院へ行っているにもかかわらず、婦人科の受診予約は入っていないので症状悪化を伝えることができずひたすら耐える日々。大学病院では予約無しで体調が悪いのでついでに診てもらうということはできないだろうと思っていたのです。「あと1ヶ月、それまで我慢しなきゃ」そう自分に言い聞かせ、腹痛と微熱による体調不良に毎日痛み止めを飲んで耐える日々でした。

病院に行く以外は一歩も外に出ない生活。お風呂に入るたびに鏡に映る膨らんだお腹を見て破裂しないか心配でした。日を追うごとに日常生活を当たり前に送ることがままならなくなり、食事とトイレ、お風呂以外では起き上がることも苦痛で辛い。また、スマホを操作することも一苦労で、友人からのLINEも返信する気力がなくて、徐々に抜け殻のようになっていきました。

ほぼ毎日寝たきりの状態で1日がとても長く感じました。手術まであと2週間となった頃、常にみぞおちあたりがキリキリと痛みました。大きくなった腫瘍が胃と腸を上に押し上げて、その圧迫によってみぞおちが痛いのだろうと思っていましたが、実際には胸水が溜まったことによる痛みだったと後になって分かりました。特に食後は激痛で、痛みはずっと続いて治る気配はなく、少し動くと咳と吐き気が酷い状態でした。

右の肺に水が溜まっていたことで、左や真上に体の向きを変えた途端に咳が出て呼吸が苦しくなるので、右しか向けない状態になって何日間も右側を下にして寝ていたので、右の顔がパンパンにむくみました。そのうち起き上がることもできなくなり、自室から出るのはトイレに行くときぐらいで、食事もベッドサイドまで運んでもらうようになりました。

真っ平らの状態で寝ると呼吸が苦しいので、ベッドの上に座布団とか毛布とかクッションを何枚も重ねて、簡易的なリクライニング風ベッドを作りました。常に上半身が少し起き上がっている状態でないと苦しくて寝られなかったのです。

食事は全く喉を通らないし、常に腹部が圧迫されているのでお腹も空かない。このままでは栄養不足でますます体調が悪化するとスポーツドリンクだけを必死で飲んでいました。

大学病院の婦人科の初診から約2週間で、お腹の膨らみは妊娠3ヶ月くらいから臨月程度にまで大きくなっていました。たった2週間で腹水と胸水がみるみる溜まり、あっという間に自力で歩けなくなるほど悪化しました。でもこれが卵巣癌の特徴でもあるそうです。

なぜこんな状態になっても病院に行かなかったのかとよく聞かれましたが、初診時に「1ヶ月くらいでは病状は変わらないので大丈夫」と言われたことで、卵巣腫瘍になったらみんな同じような症状になると思っていたのです。

ほかの大学病院やがんセンターの入院手術待ちなどの情報を見ても、大抵が3週間から1ヶ月待ちだったことで、この日程が最短であると信じていたし、検査を全部終えないと手術できないだろうとも思っていました。

そして、最大の理由は「大学病院というのはそうゆうところなんだ」と思っていたこと。具合が悪くなっても救急以外はすぐには対応してもらえない。常に患者が待っている状態。それが大学病院なんだからしょうがない。自分はまだ緊急に対応してもらわなければならないほどの症状ではない。だって良性なのだから。そう思っていたので、腹部と胸部に大量の水を抱えていることなどつゆにも思わず、苦しい中ひたすら我慢して手術までの日をただ待つのみだったのです。

緊急入院、そして告知

胸水による呼吸困難と腹水貯留による腹痛に苦しみながらも予定されていた検査を1つずつこなし、残る検査は後2つ。胃の内視鏡検査のために再び大学病院を訪れました。ところが、この頃は食事をほとんど摂っていなかったこともあり、検査に向かう途中で苦しさと立ちくらみで、病院の廊下で座り込んでしまったのです。

通りかかった看護師さんに助けられ、胃カメラの担当医師が婦人科へ連絡してくれて、そのまま車椅子で婦人科へ連れて行かれました。すぐに点滴と鼻カニューレという酸素吸入器をつけられ、ベッドでしばらく横になっていると「今日はもうこのまま緊急入院したほうがいい」と伝えられました。

この時は「緊急入院」という言葉に驚くどころか、むしろ緊急入院の言葉がありがたくて。「もう帰っていいですよ」って言われても、自宅までの道のり、自宅の玄関から自室までの道のり、トイレ、食事、睡眠などを入院予定日までに再び自力でやらなければならないかと思うと、もう余力が残っていなかったんです。

その後、婦人科の先生の診察がありました。お腹のエコー画像が映ったモニターを見ながら説明をしてくれて、「これが卵巣にできている腫瘍で、水分でできた嚢胞という塊の中に大きさが様々な形の白い影があります。この塊は中身が硬い腫瘍の影で、これがある場合は、悪性の可能性が高いんです。」と。

それから、もやっと黒い影の画像を見せられて、これは全部右の肺に溜まっている水で、右の肺が水に押しつぶされて全く機能できていないことを告げられました。同時に腹水も溜まっているので入院後すぐに腹水を抜く処置を行い、1日も早く手術ができるように、日程を調整すると聞かされました。

この日、初めて正式に医師から「悪性の可能性が高い」と告げられました。ずっと自分は良性だと信じていたのに。ただ、この日はあまりにも体調が悪くて悪性という言葉に反応するほどの気力は残っていませんでした。その後、病棟へ移動し、無事に入院しました。

大学病院初診から1ヶ月後の10月31日。平成最後のハロウィンの日でした。

Episode3 とうとう緊急入院