抗がん剤治療中の方へ抗がん剤治療ご経験者様エピソードりみのさま

抗がん剤治療
ご経験者様エピソード りみのさま

りみの様のイラスト

りみの

現役看護師。急性期総合病院から小児科クリニックへ転職した半年後に浸潤性乳管癌と診断される。ルミナルB、HER2陰性。
術前ケモ、乳房全摘、腋窩郭清、放射線治療を終えホルモン治療中。

目次

Episode2

生殖医療

諦めたくなかった出産

私は子どもが大好きだったので、そろそろ結婚、出産したいなと考えていました。そんな矢先の乳がん発覚でした。

私の場合、卵巣機能を抑制してしまう抗がん剤を使用するため、卵巣へのダメージにより閉経する可能性が高く、また治療後も再発目的に5年~10年間のホルモン治療を行うことが予想されました。そうなると、30歳代後半の私は「治療=出産は困難」な状況になりました。

がん宣告より、出産ができないかもしれないということの方が私にとって重大なことでショックは大きかったです。

がんになるとそれまで当たり前だと思っていたことを、沢山諦めなければならなくなりました。街中で子ども連れの親子を見かけて「健康っていいな、私には描けない未来なんだなぁ」と羨ましく思っていたこともありました。

私の友人で、10年以上前に脊椎の良性腫瘍に対し放射線治療を行った子がいます。この子は卵巣機能低下が予測されるので事前に未授精卵子を冷凍保存したということを話してくれていたのを思い出しました。

私は出産を絶対諦めたくなかったので、卵子保存に賭けようと決めて、がんセンターで医師に相談して、がん患者の生殖医療を専門に行っている病院を紹介してもらいました。

がんセンターも紹介先の病院も「急いでいるんでしょ?」と、すぐに手を打ってくれて、相談した翌週には生殖医療の病院の産婦人科を受診することができました。不妊治療はタイミングが大事なので本当に有難かったです。

生殖医療の産婦人科では、専門医が1時間位かけて次のような話をしてくれました。

  • 1.卵子は何個採取できるかやってみないと分からないこと。
  • 2.採卵しても元気な卵子とは限らないので全部が使えるわけではないこと。
  • 3.未受精卵を冷凍保存すると、解凍して使用する際に受精に成功する確率はもっと低くなること。
  • 4.受精に成功しても子宮に無事着床する確率はさらに下がるので、妊娠は数%の確率になる可能性もある。

また、私の乳がんはホルモン受容性が高いので、女性ホルモンの数値が上がるとがんも増殖してしまいます。

通常は卵巣に1個しかない卵子ですが、できれば沢山採取したい。そして、そのためには女性ホルモンをhMGという注射で増やして卵子を増やす必要があります。しかし、女性ホルモンが増えるとがんが大きくなってしまうかもしれないとの説明もありました。

ただ、最後に生殖医療の医師が「出産を希望している女性にとって、例え妊娠の確率が低くても卵子を保存していることが治療を乗り越える希望になるよ」と言ってくれた時、この言葉がストンと心に落ちました。

「がんが大きくなったとしても、これから抗がん剤治療して、もしかしたらがんが消えちゃうかもしれない。卵子を保存しないことで後悔することはあるだろうけど、保存して後悔はしないと思う!」とかなり強気で未授精卵保存に踏み切りました(笑)。

生殖医療の流れ

女性ホルモンの数値を上げすぎず下げすぎず調整しながら、内服と点鼻薬と筋肉注射、採血を毎日しなければなりませんでした。

受診のために仕事はもう休めなかったので、ここで看護師の特権を利用。生殖医療の医師にお願いして採血と注射は持ち帰らせてもらって、毎日看護師の友人を呼んで自宅で注射することに。同期が近所にいて助かりました(笑)。

がん患者の卵子保存の治療は基本的に一般の不妊治療と同じような流れですが、仕事をしながら不妊治療するのは本当に難しいと実感しました。

週1回位受診して、卵子の大きさを内診で確認しながら排卵日を予測して採卵日を決定するのですが、ギリギリまで卵子を大きく育てたいし、待ちすぎてたった1日タイミングが遅れると排卵してしまって採取できなくなるので、繊細な治療だなと感じました。

2週間位注射と薬で卵子を育て、最終的には卵子は7個育っていました。採卵日前日の深夜23時頃に排卵を促す注射をしに受診。翌日日帰り入院。個室でしたが、隣に簡易手術室のような部屋が隣接されている採卵専用の部屋でした。

点滴で抗生剤を流して、採卵室のベッドで横になって「ぼーっとする麻酔しますよー」と静脈麻酔を投与……気が付いたら採卵処置は終わっていました。

「局部麻酔注射するときに、痛そうな顔をしてましたよ」と後から看護師に言われましたが、全く記憶にありませんでした。そのため苦痛なく無事7個の採卵ができました。その日はそのまま帰宅し、出血も痛みもなく翌日は普通に仕事をしていました。

乳がんのしこりが少しずつ大きくなっている印象だったので、卵子の保存が終了して「晴れて抗がん剤治療に進める!」とホッとしたのを覚えています。

過去に卵子保存をした友人に話を聞いていなかったら、がん宣告されて検査や職場とのやりとりでバタバタしていたあの時、医師からは簡単な説明だけだったので、実際に卵子保存しようなんて考える余裕なかったと思います。

そんな友人は5個という少ない数の未授精卵採取の中で1個が無事受精、着床して、最近令和ベビーを出産し、私の希望になっています。

Episode3 治療方法